INTRODUCTION
【解説】

(創作の中心は「詩」。詩が長くなったのが「小説」で、音楽がつくと「ロック」。「映画」はその要素が全て詰まっている立体的な世界)と語る辻仁成にとって、映画は愛してやまない表現手段であり、映画を撮るということは宇宙を撮るようなものだ。『千年旅人』(1999年ヴェネツィア国際映画祭・国際批評家週間正式招待作品)に続く劇場長編第二作『ほとけ』のロケ地は北海道・函館。小説「函館物語」「世界は幻なんかじゃない」にも登場するこの港町で、辻は多感な青春時代を送った。エキゾチックな洋館、煉瓦造りの倉庫や塀、造船所、漁港、汐に白く焼けた板壁の家々と、函館にはロケセットにうってつけの建築物がいまも数多く残っている。

 映画という宇宙の構築を考えるとき、辻がまず協議するのが美術監督。彼の頭の中にあふれだすイメージを、美術の種田洋平がデザイン画にまとめ、緻密なディスカッションを通してスクリーンに定着させる「絵」を創り上げていく。

 「ほとけ」で重要な位置を占める「絵」は、「船員会館」と「巨大な鉄仏」。無住のまま荒れ果てていた建物の外装は一度きれいに磨き上げられてから、わざわざ汚された。そして、シバ(大浦龍宇一)一味がたむろし、ユマ(yuma)がマッサージ師として働く船員会館へと生まれ変わった。正面のがっしりしたドアを開けて中に入ると高い天井のホール。左手にバーカウンター、正面に二階に続く擦りへった階段、そして右手にマッサージ室が配置されている。木製の窓枠、黄ばんだ壁に貼られた注意書き、おしぼりいれ、扇風機...マッサージ室は細部まで一つの時代を切り取っている。

 もう一枚の「絵」」は鉄仏。映画中で武田真治演じるライが街中の鉄くずをリヤカーで拾い集め、密かに造り上げる巨大な鉄の仏だ。監督とのセッションの後、アトリエで種田が描き上げたデザイン画をもとに建立したのは職人・坪井一春。「仏殿」は青函海峡に面する海岸に建つ自動車修理工場。遠く海の彼方、西方浄土を見晴らす金色の目を持つ、高さ5.7m、重さ6.5ォの巨大な鉄仏。廃棄されていたテレビや冷蔵庫を組み合わせた蓮台の上に、V字鋼、パイプ、鉄筋、サッシなど、ありとあらゆる鉄材を溶接して胴体部を造り、頭部の螺髪(らほつ)はボルト、光背は赤く錆びたトタン板を流用している。

 「絵」を創った後に綿密に練り上げられたシナリオを、辻は現場で惜し気もなく変えていく。シーンを切り、台詞もカットも変える。傍目には思いつきのインスタレーションとも見えそうだが、その実、演出は丹念で粘っこい。俳優への、とりわけて感情の表出についての演出は微細だ。まずその場の状況を飲み込ませ、台詞を吐く瞬間の目線の使い方を、声の調子や息使いまで、その瞬間のタイミングから説明する。言葉をつかって微細な感情や心理を表現する小説家ならではの演出だ。また、「南京豆売り」「情熱の舞姫(アマポーラ)」「夜来香」「メキシコの夜」など、郷愁を誘う音楽も本作では効果的にちりばめられ、作品をより印象深いものにしている。

 「ほとけ」のモチーフは、生と死、暴力、コミュニケーションの不全、そしてある種の宗教性...それは辻が小説で追い続けてきたモチーフであり、同時に私たちが「いま」という時代に向き合う時、決して逃れ切れないテーマでもある。

 主人公ライを自然体で演じるのは、「御法度」(99・大島渚監督)での沖田惣司役がすがすがしく印象的だった武田真治。その兄でバイオレントだが、一本気なシバを大浦龍宇一。シバを慕う盲目の少女ユマをyuma。ユマとシバをめぐって張り合うモエを本作がスクリーンデビューとなる不二子。シバの子分ですぐにキレる真蔵に津田寛治。シバのライバル・ムジには城尚輝など、フレッシュで個性的な若手演技派をキャストした。これを囲んで井川比佐志、根岸季衣、千石規子など名うての芸達者たちが脇を固め、至福のラストへとドラマを盛り上げる。

2001年/113分/35mm/カラー/ビスタ/







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